2013/09/25

パタゴニアの新広告、失敗の理由

ニューヨークコレクション真っ只中の910日、アウトドアアパレルのパタゴニアが、ニューヨークタイムズ紙に「新品よりも良い(Better than New)」という全面広告を掲載しました。

広告には、1994年から着続けられているというボロボロのサーフショーツの写真と共に、次のようなメッセージが書かれていました。

「ファッションウィークでは、新しいデザインに関心が向けられます。
私たちはもっと良いこと、すなわち「長持ちする」ことに注目したいと思います。
パタゴニアは製品の品質と機能性に自信を持っていますが、新たに製品を作ろうとすれば(他の人が作るものもすべてですが)、必ず自然界に負荷をかけることになります。そして、かけた負荷をどうやって取り戻せるのか、私たちは十分に理解していません。

そこでパタゴニアは、新しい製品だけでなく、古い製品にも注目することにしました。

何年も何十年も着続け、持ち主と旧友のような関係になっているパタゴニアの商品の写真とそれにまつわるストーリーをお客様から送ってもらい、ブログ「Worn Wear(着古し)」に記録しています。

上の写真は、クリスト・グレイリングさんが1994年から着続けているサーフショーツです。彼は、インド、バハ・カリフォルニア、エクアドルとあらゆる場所でこのショーツを着てパドリングやサーフィンをしてきました。破れて傷がついてお直しされてはいるものの、いまでもこのショーツは現役です。背面にはビーチパラソルの布が縫いあてられ、破れた裾の部分は他のパタゴニアのショーツの布で補強してあります。

この秋、パタゴニアのいくつかの店舗で、「Worn Wear」という名の中古品を販売するコーナーを設けることにしました。パタゴニアの製品は高品質ですから、中古品であっても、これからさらに素晴らしいWorn Wearストーリーを紡ぎ出すことでしょう。

この取り組みは、消費を減らし、修理し、着なくなったものを再利用し、着古したものをリサイクルしたり他の目的で使用し、自然界が生み出すことができる分だけを使用する世界になるよう考えるという、お客様と私たちとの共同作業コモン・スレッド・パートナーシップの一環です。」
(以上、パタゴニア広告より翻訳転載)

どこかで聞いたことあるような話だな、と思いませんでしたか。

そうです、一昨年のサイバーマンデーの日に同社が行った「この商品を買わないでください」広告と、そっくりです(パタゴニアがサイバーマンデーに送付したメルマガの内容)。

ところが、多くのメディアが取り上げ、大きな話題となった「買わないで」広告とは異なり、「新品より良い」広告は、メディアにもブログにも取り上げられることはありませんでした。

恐らくその理由は、前者では新聞掲載と同時に同社のニュースレターでも同じ文面を流したのに対し、後者では新聞掲載のみに留めたからでしょう。
なぜ同社が今回ニュースレター送信を控えたのかわかりませんが、タブレットやスマホやPCでメディアを読むこの時代において、紙のニューヨークタイムズを購入する人は少なくなっているでしょうし、サステナビリティに興味のある人は特に、紙資源や輸送時のエネルギーの無駄を省くため電子媒体で購読する人が多いでしょうから、露出効果がそれほど高くなかったのでしょう。

これに加え、同社の"計算"が見え隠れしたことが、メディアに良くない印象を与えたのかもしれません。

実は、「買わないで」広告を出した11年と比べ、翌12年は同社の売上が30%も伸びています(BusinessWeek)。

同社はこれを、"良い行いをすれば業績も良くなるという良い例"だとしています。
メディアや市民も、良い行いをし、その意図に反して売上が増えたのだからと好意的に見る人が多かったのでしょうが、今回の「新品より良い」広告は、ファッションウィークと中古品を関連付けるのも無理があるように思えますし、意図的に2年前と同様の効果を狙ったように見え、あまり良い印象を与えなかったのかもしれません。

アパレル企業が自社ショップで自社製品の中古品を販売するというのは、なかなかできることではありませんし、資源面から見ても素晴らしいことです。
早期にオーガニックコットン使用率を100%にしたことや、同社製品を回収・リサイクルして再び同社製品に作り変える完全循環型のシステムを確立したことなど、同社がサステナビリティに関するリーディングカンパニーとして目覚しい活動を行ってきたことは、誰もが認めています。

しかし、立派な活動をしている企業の製品だからといって、いくらでも買っていいというわけではありません。
環境や社会に対し何の貢献もしていない企業の製品よりは、同社の製品を購入する方が負荷は削減できるでしょうが、必要もないのに購入すれば、かえって負荷を高めることになりかねません。

同社は営利企業ですから、売上を伸ばそうとするのは当然でしょう。
しかし、昨日付けで同社が発表した「責任ある経済」キャンペーンでは、「責任ある経済」とは「成長と消費の増加が繁栄と同義だと考える経済に対する挑戦」だと主張しています。
再度の売上増を狙ったかのように見える「新品より良い」広告は、この主張にも反しています。

このキャンペーンは、同社の40年間にわたる環境・社会活動を記念し、今後2年間にわたり、「どうすれば責任ある経済を構築できるのか」「責任ある経済の事例はあるのか」、皆で検討しようというものです。

同社自身はこれらの疑問に対する答えを用意しているわけではないとしています。
30%成長する同社が「責任ある企業」といえるのか、恐らく自社内でも悩んでいるのでしょう。

創業者のイヴォン・シュイナード氏は、以前イエール大学で行われた講義で"適正な企業規模"を問われ、「そのことは常に考えている」と明言を避けながらも、「カヤックをするときは荷物を持ち過ぎてはいけない」「スキーの習得時には株式市場のように一気に15%上達することはなく段階的にうまくなる」「自分も社員も食事代を稼がなければならない」などと語っています(パタゴニア創業者、イエール大学で講義)。

良い行いをする企業の業績が向上するのは好ましいことです。しかしながら、人間が生きるうえで常に必要な食糧と異なり、パタゴニアが作っているのは嗜好品であるアパレルです。これが同社の矛盾に繋がっているのでしょう。

アパレル製品は既に先進国では供給過多になっていますから、来るべき資源不足を考えれば、適正量に減らしていかなければならないでしょう。それは、良い行いをするパタゴニアであっても同じことです。

アパレル生産を減らすことで、生産国である途上国の発展の道が閉ざされるのではという意見や、回収した古着を途上国に送ることで途上国自身のアパレル産業が衰退するという意見がありますが、資源は世界レベルで循環させるべきでしょうし、本来必要でない製品を作ることで不自然な発展を続けるよりも、自国の食糧を生産するために労力を使い、持続可能な発展を目指した方が健全ではないでしょうか。

また、消費抑制の話題になると、経済が鈍化し人々の生活が貧しくなるという議論になりがちですが、資源や気候変動の状況を見る限り、未来永劫現在のような便利で快適な生活を続けられるとは思えませんし、解決策のひとつとして、人間の生存に必要でないのに環境・社会負荷の高い商品を作る代わりに、生存に必須で優れた商品を環境・社会負荷を限りなく減らして作るよう、企業が取り組むべきではないでしょうか。

パタゴニアは既に、食品事業や、社会に良い行いをする他社に投資する事業を始めています(パタゴニア、環境問題解決に向けたベンチャーファンド「$20ミリオン&チェンジ」をスタート)。

人間が人より多く物や金を欲しいと願い続ける限り、持続可能性と経済発展の関係に関して、統一した正しい解が出ることはないでしょう。

パタゴニアは矛盾に挑戦し続ける企業です。今回の広告はあまり好ましいものではありませんでしたが、今後もアパレル企業としてあるべき姿を模索し、他社の見本となってくれることを期待したいと思います。

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