2013/03/12

ニューヨーク市の糖分入り飲料のサイズ規制、
施行前日に州最高裁判事が否決
~なぜこんなにも批判が多いのか~

昨年大きな話題となった、ニューヨーク市の糖分入り飲料のサイズ規制。
これは、市の肥満対策の一環で、映画館やデリなどで販売されているカップ入りの糖分入り飲料に対し、16オンス(約450g)以上の販売を禁止するという条例です。
昨年、この条例を市議会が可決し、本日3/12から施行されることになっていました。
市内の店舗は、メニューを変えたり注意書きしたりと、今日の施行に向けて準備を進めていました。

ところが、昨日(3/11)、突如ニューヨーク州の上位裁判所判事がこの条例を無効とする判決を下しました。
これに対し、メディアは一斉に判決に対する好意的なニュースを流しました。

昨年から、このニュースをずっと追っていたのですが、どうにも奇妙な感覚を抱いていました。
その理由のひとつは、メディアがこの規制に対する賛成意見をほとんど出していないことです。

もちろん、この規制は抜け穴があまりに多く(規制対象が映画館やデリのみで、コンビニやスーパーは除外、主に炭酸飲料のみが対象で、乳製品などは除外、など)、それに対する不満は当然だと思います。
個人の選択の権利の侵害だという意見も、アメリカ人らしくて最もだと思います。

ただ、ニューヨークは健康志向の高い街ですから、地方都市でよく見かけるような、バケツのようなカップで炭酸飲料を飲んでいる人など、ほとんどいません。
むしろ、炭酸飲料やファストフードを嫌悪している人の方が多いと思います。
2年前のオキュパイ・ムーブメント(ウォール街を占拠せよ運動)でも、批判の対象は金融業界と「大企業」でした。



自分でも飲まないし、他人が飲むことも好ましく思っていない、大手飲料業界も嫌っているのですから、この条例に反対する理由はないはずなのです。
選択の権利を掲げて反対している人たちも、本人自身は、とても普段大量の炭酸飲料を飲んでいるとは思えない健康的な体型です。
それに、反対派の人たちが、肥満の医療費が税金(=自分のお金)から出ていることを理解していないとも思えません。
(アメリカは国民皆保険ではありませんが、低所得者向けの保険は行政が面倒を見ています。一般に、肥満になるのは、ファストフードなど安くカロリーの高い食事に頼らざるを得ない低所得層が多く、肥満の医療費が税制を圧迫しているため、国や自治体が肥満対策に躍起になっています。)

それなのに、ニュースでは、条例賛成派の意見がほとんど出てこない。
しかも、昨年の条例可決後に、米飲料協会が市を相手に訴訟を起こしたというニュースですら、大手メディアは報じていない。
そして、昨日の判例に関するニュースでは、この判決が米飲料協会の訴訟に対するものであるということも、ほとんどのメディアが報じていない。

メディアの報じ方が、意図的にこの条例を阻止しようとしているようにしか見えないのです。
大手飲料メーカーは大手メディアの上得意客でしょうから、その影響は多いにあると思います。
それにしてもやり方が酷いなとは思いましたが、それに騙されてしまう市民も考えが足りないということなのでしょう。

それと、もうひとつ気になったのは、「個人の権利」に対する主張です。
アメリカは多民族国家ですから、個人の権利を尊重します。
そして、それを尊重し過ぎるあまり、政府の統制をとことん嫌います。
この飲料サイズ規制においても、個人の権利を理由に反対する人が多く、自由市場経済への挑戦だとするメディアまでありました(CNBC)。
ただ、もし個人の自由を守りたいがために、自分が良くないと思っている社会悪でさえ許してしまっているのだとしたら、それは大きな問題だと思います。
リーマンショックの後でさえ金融業界が規制されなかったのも、自由市場経済支持派の力が強力だったからでしょうが、この片鱗がこの事例でも見られるように思います。

自由を守ることは大切ですが、社会は善人だけで構成されているわけではありませんから、適度な統制は必要なはずです。
糖分が大量に入った飲料を、一回で飲みきるよう、巨大なサイズのカップに入れて販売することは、権利でも自由でもなく、単なる飲料業界の暴走だと思います。

そしてもうひとつ、今回の判決に対するニュースを見ていて、これほどこの条例に対する批判が多いのは、恐らく市長に対する嫉妬もあるのだろうなと思いました。

現在のニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグ氏は、高額納税者リストで常に上位に入る億万長者です。
給料がなくても生活できますから、就任初日から給料をもらっていません(便宜上年1ドルはもらっていますが)。
市の政策に対して、自腹で寄付することも珍しくありません。

にもかかわらず、任期中、ことあるごとに、彼の豪邸や資産が、悪い意味で引き合いに出されていました。
これまでに行った、タバコ規制やレストランのメニューへのカロリー表示なども、社会にとっては良いことなのに、散々叩かれていました。
今回の判決に関するニュースでも、今年で市長の任期満了となるため、業績を得るためのこの条例は何としても通したかったのだろうが、残念でした、というような意地悪な報じ方をしているメディアが多く見られました。

確かに、同氏のやり方は強引なところもあると思いますし、横柄な話し方も時折見受けられます。
万人に受け入れられるタイプではないのでしょうが、客観的に見て、環境問題にも社会問題にも真摯に取り組んでいるように見えますし、業界と癒着することなく、市の経済問題にも適切に対処しているように見えます。
市長としての手腕は優れているように見受けられますが、それでも、ここまで叩かれるというのは、恐らく高所得者である同氏に対する嫉妬なのだろうなと思いました。

ちょうど昨日、フェイスブックCOOの女性が出した本に対して、女性からの批判が多いというニュース(CNN)が出ていました。
これも、裕福な家庭に生まれ、成功した女性に対する嫉妬なのだろうと思いました。

他人を羨ましいと思う気持ちは、向上するためには必要だと思いますが、それが度を越して単なる嫉妬になると、自分にも相手にも何ら良い影響を及ぼさないと思います。
ただ嫉妬して不満を述べるのではなく、成功者や高所得者から学ぶべき点を見つけることで、自分も社会も良い方向に発展していくのではないかと思います。

非常に大きな話題になった飲料サイズ規制のニュースですが、背後に様々な問題が垣間見られました。

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