2012/07/12

プーマの環境志向

プーマのヨッヘン・ザイツ会長が、フィナンシャルタイムズ紙のインタビューで、将来的に革製品を扱わない可能性に言及しています(FT)。
具体的な発言は、次のとおり。

「いずれは革に代わる素材を見つけないとならないだろう。それについて疑問の余地はない。」
「我々皆で、肉の消費量を減らしていかなければならないし、革についても同じことだ。それが現実だ。」
「牛肉がCO2排出量増加に加担していることは、誰もが知っている。」
「ばかばかしいと思われるかもしれないが、革に似た合成素材で製品を作る経済的な方法はあるだろう。」

革に限らず、近年のプーマの環境志向には目覚ましいものがあります。
・世界に先駆けて環境PLを導入(NYGF)
・包装資材を削減(NYGF)
・リサイクルプログラムを開始(NYGF)

ザイツ会長は、恐らく「気付いた」人なのだと思います。

時折、経済界でトップ・オブ・トップに上り詰め、突然、環境・社会問題に気付き、企業の方向性を一気にサステナブル路線に変えてしまう人がいます。

ウォルマートの前CEOリー・スコット氏が代表的です。
2005年に突如サステナブル戦略を立ち上げ、競合他社や政府を巻き込みながら、次々と壮大な試みを行い、"嫌われ者"ウォルマートを"環境先進企業"として崇められる企業に変貌させました。
しかし、09年にCEOを辞した後は、すっかり噂を聞かなくなってしまいました。
"政府と企業とNGOの協業による社会貢献・環境対策"に興味を示していたので期待していたのですが、現在はリタイアして、のんびり暮らしているのかもしれません。
スコット氏が抜けた後のウォルマートは、依然サステナビリティを主張してはいるものの、大きくトーンダウンしました。
逆に、再び"成長戦略"で突き進んでいます。
恐らく、現在でもサステナブル部門の方々の意識は高いのでしょうが、"成長"を第一命題に掲げる企業の中で芳しい成果を上げることは難しいのではないかと推察します。
主張ばかりでなかなか実態が伴わないため、かつての"環境先進企業"が"グリーンウォッシャー"と揶揄されるまでになってしまいました。

一方、ザイツ会長は、2011年にCEOの座を降りましたが、現在でも会長として発言権を堅持し、同時にCSO(Chief Sustainability Officer)として同社のサステナブル経営を指揮しています(PPR)。
同社のみならず、親会社PPRを巻き込んでサステナブル旋風を巻き起こしていますから(NYGF)、現在でも大きな権力を握っているのでしょう。
企業内での力関係もあるので、一概にスコット氏とザイツ氏を比較すべきではありませんが、恐らく社内や株主からの批判もあるだろう中、意志を貫き通すザイツ氏の姿勢は素晴らしいと思います。

マーケティングの一環としてCSR(企業の社会的責任)を活用する企業は多々ありますが、プーマやかつてのウォルマートのように、トップが率先してサステナビリティに取り組む企業は稀少です。
現在のシステムでは数値的な"成長"が経営者の評価になるので、多くの経営者にとって、社会や環境はどうしても"後回し"になってしまうのでしょう。
また、経済成長と持続可能性の共存に関しては、これまで議論し尽くされましたが、現在の経済・社会システムを続ける限り両者が矛盾でしかないことは明らかですから、よほどの意志がなければ企業トップがサステナビリティを強く主張することはないと思います。


では、プーマの活動が真にサステナブルといえるのかといえば、そういう訳でもありません。
包装資材を多少削減したところで気候変動が解決するわけではありませんし、公表した環境PLには既存のPLに一切影響を与えないとわざわざ言及されています。
しかし、何も対策を取らずに、ごまかし隠しながら環境を汚染し社会問題を生み出し続ける多くの企業と比べれば、環境・社会負荷を削減するための活動を多々実現しているのですし、同社の行動が社会に大きな影響を与えているという点からも、大いに評価されるべきだと思います。

以前にもこのブログ内で記しましたが、ビジネスを行う上で100%サステナブルになることはあり得ませんし、アパレル事業は尚更です(サステナブルファッションの意義と矛盾)。
ザイツ会長も、テレビのインタビューで、矛盾を突かれていました(Channel4)。

サステナビリティの重要性を語るザイツ会長に対し、インタビュアーが、
"まだ十分使える靴を履いているにも関わらず、かっこいい新しいスニーカーを買って欲しいと子供にせがまれたら、母親はどう言うべきか”と質問。
ザイツ会長は、「もちろん、それなら環境に配慮しているプーマの靴を買いなさいと言うべきです」と模範回答。
笑うインタビュアー、という具合です。

世界全体で大きな意識・構造改革がない限り、本当の意味で持続可能な社会は実現できないでしょうが、ソフトランディングを求めるならば、そこに向かう過程として少しずつでも環境負荷を削減すべきです。
自然災害の多発状況を見ていると、一刻も早くすべての企業・人が対策をとらなければ取り返しのつかないことになるのではないかと懸念します。

企業はトップの考え次第で大きく変わります。
持続可能性に向けて舵を切るには、トップの「気付き」が必要であり、ザイツ氏のように、矛盾は矛盾と受け止め、未来に向かって突き進む強い意志を持つ経営者が必要なのだと思います。

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